『診療看護師』は「特定看護師」と言えますが必ずしも「特定看護師」は『診療看護師』とは言えません。
よく違いが分からないと言われるため、特定看護師と診療看護師の違いとは何かを説明していきたい。
特定看護師とは
まず、特定看護師とは正式名称ではない。日本看護協会では以下の様に説明している。
法律上、「特定看護師」という資格はありません。
2011年に取りまとめられたチーム医療の推進に関する検討会報告書「チーム医療の推進について」において、「特定看護師(仮称)」の提案がされましたが、その後の議論を経て創設された「特定行為に係る看護師の研修制度」はあくまで研修制度であり、新たな資格をつくる制度ではありません。
しかし、特定行為に係る看護師の研修制度の普及・活用にあたっては、「特定行為研修を修了した看護師」を略して「特定看護師」と呼称することは問題ありません。
「特定行為に係る看護師の研修制度」よくあるご質問 | 日本看護協会
上記より特定行為研修を修了した看護師を特定看護師と便宜上用いている。
また、特定行為研修とは、平成27年(2015年)3月13日「保健師助産師看護師法第三十七条の二第二項第一号に規定する特定行為及び同項第四号に規定する特定行為研修に関する省令(厚生労働省省令33号)の交付を受けて試行されたものである。
この法令を元に特定行為研修が進められその区分は21区分38行為である。
詳細はこちら 特定行為とは |厚生労働省
またこちらも参考にして頂きたい
特定看護師と特定行為 – Up to date:診療看護師 Nurse Practitioner
特定行為研修を受けて特定看護師になるには – Up to date:診療看護師 Nurse Practitioner
これらの事から特定看護師とは、特定行為研修を1区分でも終了した看護師の事を指す。また看護師経験年数も3年~5年あれば特定看護師になれる。
特定看護師は来たるべき2025年問題に向けて10万人の養成を目標にしている。活動の場は病棟、在宅など様々である。特定行為に係る看護師の研修制度について
病棟を例に挙げると、1つの病棟に日勤、深夜のどの勤務帯にも一人は特定看護師がいることを目的と私は考えている。達成された時(現時点では無理だけど)日本の医療は効率的で良い方向にいくらか変わるだろうなと思う。
診療看護師とは
診療看護師(NP)を養成している一般社団法人日本 NP 教育大学院協議会(以下NP協議会)では以下の様に定義している。
診療看護師とは、「本協議会が認める NP 教育課程を修了し、本協議会が実施する NP 資格認定試験に合格した者で、患者の QOL 向上のために医師や多職種と連携・協働し、倫理的かつ科学的根拠に基づき一定レベルの診療を行うことができる看護師」
※2020年から特定行為の文言は削除されました。詳しくは診療看護師とは?
つまり、診療看護師とはNP協議会が認定するNP教育課程の大学院にて2年間の医学教育や看護学、特定行為などを修めた看護師の事である。また看護師5年以上の経験が無いと診療看護師にはなれない(北海道医療大学は3年で可能。プライマリー領域に関しては結構NP協議会でも定まっていない様子)特定看護師は3年でもそれ以下でも特定行為研修を受けられる所あり。
また、厚生労働省の平成29年4月6日の新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会報告書( 資料1)では以下の様に紹介されている。
現在、我が国において「診療看護師」は制度化されていないが、 日本NP教育大学協議会の認める教育課程を経て認定された看護師が、特定行為として認められている医行為に加えて、挿管、腹腔穿刺等の医行為を行っている。
なお、同協議会の認定する看護師は、あくまで現行法の範囲内で、医師の指示の下、診療の補助を行うものであり、医師の指示を受けずに一定レベルの診断や治療などを行うことができる米国等の「ナース・プラクティショナー」とは異なる。
上記の説明から分かるように診療看護師は特定行為と特定行為に指定されていない医療行為(挿菅、腹腔穿刺)等を行う存在である。
また厚生労働省の平成30年1月15日の第6回医師の働き方改革に関する検討会タスクシフティングについて診療看護師の紹介がなされている。(資料2 )
資料2からも分かるように教育内容は特定行為外の医療行為もトレーニングするので、自ずと特定行為研修より高度な教育がなされているのが推測される。
私自身の考えでは、海外のナースプラクティショナーを参考に日本の環境に合わせた日本版のナースプラクティショナーという位置付けであると考えている。
実際に国立病院機構(NHO)ではJNP(Japanese Nurse Practitioner)という名称で診療看護師は活動をしている。
海外では費用対効果や安全性が研究によって認められている:Nurse Practitioner-Sensitive Outcomes。 論文:(1)(2)
日本では未知の資格であり、医療にどの様な効果をもたらすかは不明である。まさにこれからどうなるか分からない資格と言える。
※追記
2019年に日本の診療看護師によるエビデンス集が日本看護協会から出された。
『2018 年度 NP 教育課程修了者の活動成果に関するエビデンス構築パイロット事業 報告』日本看護協会
研究の質は必ずしも高いとは言えないが、今後良質な研究も出てくるだろう。自分たちの効果を証明する手法や研究に関する教育を受けている診療看護師の強みと思う。
診療看護師(NP)と特定看護師との違いは?
特定看護師と診療看護師について説明をしてきた。
では違いとは何か?
①出来る医療行為が違う
1つ目は、出来る医療行為が違う事が挙げられる。特定看護師は21区分38行為の特定行為が出来る看護師である。この行為を全て行える特定行為研修期間は1施設のみであるである。他はNP協議会認定の大学院である(資料3)。
そして他の施設では3区分だとか5区分など特定行為の区分は限定的である。基本的に診療看護師は全ての行為又は大多数の特定行為が大学院卒業後付与される(北海道医療大学、佐久大学のNPに限っては違う所もあるため異論もある)。
因みに中心静脈カテーテルの挿入や処方なども診療看護師は包括指示の元に実践している。
これは元々は診療看護師の養成は平成20年度より大分県立看護科学大学院にて開始されている。
特定行為研修は平成27年に試行されたのだが、診療看護師の養成の方が、看護師の特定行為より先に出来ているのである。
したがって、特定行為を意識せず、診療看護師(NP)に必要と思われる医学知識や医行為のトレーニングを行ってきた経緯がある。
②教育場所が大学院か医療機関又は研修施設の違い
2つ目に教育が大学院か医療機関又は研修施設で学ぶかである。
基本的に診療看護師は大学院で教育され修士号の学位を持つ。
しかし特定行為研修では修士号の学位は必ずしも取得出来ない。つまり学歴は変わらない場合がある。
③NP認定試験に合格したかの違い
3つ目は日本 NP 教育大学院協議会(NP協議会)認定の民間資格を持っているかの有無である。
日本 NP 教育大学院協議会は毎年NP認定試験を実施しており、この試験合格者が晴れて診療看護師として認定される。
更に認定後も5年毎に更新制度がある。
その為、資格更新に向けて診療看護師として学会参加や実務、研究など絶え間なく活動して行く必要があり質の維持に努めている。絶え間なく学び実践する事が求められるのである。
特定行為に関しては現段階で更新制度では無い為、一度取得すれば資格は保持される。更新制は今の所していないようだ。つまり取得したらその後の研鑽は無く、質の担保には不安が残る。しかし、ただの医行為が出来るという証なので、更新制は不要なのかもしれない。また、取得後のハードルが高いと受講者が増えないということも影響しているのだろう。
④研究関連の教育の有無
4つ目は研究関連の教育の有無。
診療看護師は大学院というアカデミックな特性上、研究に関する教育を受ける。
論文を書き上げる所もあれば論文のレビューであったり、英語論文講読など殆どの大学院で修習する。
特定行為研修にはこの項目は無いだろう(もしかしたら存在するかも)。
これは診療看護師が自身の効果を検証する為や最新の医療について医師や他医療職と共通した言語を話す上で重要である。
以上が診療看護師と特定看護師の違いである。
まとめ
- 特定看護師→特定行為研修を1行為でも修了した看護師(3年~5年の看護師経験が必要)更新制では無い。
- 診療看護師→大学院にて教育を受け修士号を持つ。加えて特定行為の大多数を修了し更にそれ以上の医行為も行う看護師(北海道医療大学を除き、基本的に5年以上の看護師経験が必要)また、5年毎の更新制である。
- 診療看護師と特定看護師では特定行為の出来る行為数が違う(例外や異論あり)。また診療看護師は特定行為外の医行為の実践もあり得る。
- 診療看護師は大学院課程を経て修士号の学位を持つ。特定看護師は学歴は付かない事が殆どである。
- 診療看護師はNP認定試験合格者であり5年毎の更新が必要である。特定看護師はNP試験は受けなくて良いし特定行為を一度取得すれば更新の必要無い。
- 診療看護師は研究に関する教育を受けている。特定看護師は恐らく受けていない。
つまり、
『診療看護師』は「特定看護師」と言えますが、必ずしも「特定看護師」は『診療看護師』とは言えません。
参考資料として実際の診療看護師として活動されている方々のブログを添付する。
私が診療看護師(NP)を目指した理由 – CNS/NP y.m. diary
現在、特定行為研修は認定看護師の教育課程にも組み込まれることが決定している。特定行為を出来る看護職は非常に多くなり一般的になると予想される。
その為、診療看護師は制度化に向けて特定行為とは切り離した独自性を出そうとしている所である。
今後、診療看護師での課題は海外のナースプラクティショナーが行っている処方権、診断や治療に関する権利や開業権、死亡診断といった所に集中していくだろう。
もっと細かに付け加えたい所もあるが、大まかに言えば上記の通りである。
以上がネット上から集めた情報である。
また、診療看護師と特定看護師は同じとする意見もあるので、こちらのブログが参考になる。
「診療看護師」と「特定看護師」は異なるとか、それはやっぱり違うんじゃないかと思う件|樋口佳耶|note
現在、診療看護師については、正式な資格としてナースプラクティショナー制度への移行を目指し、看護協会で検討中である。
ナース・プラクティショナー(仮称)制度の構築 | 日本看護協会
今後の決着が付き次第、違いが明白になるのではないかと思っている。
今後徐々に追加修正していく予定である。
引用文献
- 「特定行為に係る看護師の研修制度」よくあるご質問 | 日本看護協会
- 特定行為に係る看護師の研修制度 |厚生労働省
- 日本NP教育大学院協議会
- (資料1)厚生労働省.平成 29 年4月6日新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会報告書http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000161081.pdf
- (資料2)厚生労働省.平成30年1月15日第6回医師の働き方改革に関する検討会タスクシフティングについてチーム医療における診療看護師(JNP)の役割~外科,救急科等における現状報告~http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000191037.pdf
- (資料3)厚生労働省.特定行為に係る看護師の研修制度.指定研修機関等について看護師の特定行為研修を行う指定研修機関 (平成30年2月現在)http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000196113.pdf
- 論文(1)Sakr, M., Angus, J., Perrin, J., Nixon, C., Nicholl, J., & Wardrope, J. (1999). Care of minor injuries by emergency nurse practitioners or junior doctors: a randomised controlled trial. Lancet (London, England), 354(9187), 1321–1326. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(99)02447-2
- 論文(2)Laurant, M., van der Biezen, M., Wijers, N., Watananirun, K., Kontopantelis, E., & van Vught, A. J. A. H. (2018). Nurses as substitutes for doctors in primary care. The Cochrane Database of Systematic Reviews, 7, CD001271.https://doi.org/10.1002/14651858.CD001271.pub3
- College of Registered Nurses of Nova Scotia, Halifax, Nova Scotia (2016).Nurse Practitioner-Sensitive Outcomes 2016 Summary Report
- 看護管理者支援サイト.【特定看護師と診療看護師の違いと資格取得の過程 篠﨑真弓】2.特定看護師と診療看護師の違いについて:http://nsmgt.org/2018/02/11/mayumi-s2/