今回はアメリカのナースプラクティショナーの現在について紹介する。
ナースプラクティショナーとは
ナースプラクティショナーの歴史や発展についてはこちらでまとめている。米国NPの歴史発展
Nurse practitonerとは高度実践看護師であり,アセスメント,医学的診断,そして必要な治療を行うことができる.様々な健康課題を抱える地域住民に対し,高度な病態生理学の知識に基づいた包括的アセスメントを行い,治療を行うが医学的治療だけでなく,様々なレベルでの疾病予防を行う.(1)
大学院での高度な看護教育を受けるため、高度実践看護師=Advanced Practice Registered Nurse(APRN)とも呼ばれる存在である。他のAPRNは専門看護師(CNS)や助産師、麻酔看護師(CRNA)などが含まれる。
アメリカ最大のNP団体であるAANPホームページでは、
✔NPは修士号または博士号プログラムを修了し、初期の専門的な正看護師(RN)の準備を超える高度な臨床研修を受けなければなりません。(大学院修士課程以上の教育)
✔NPは厳格な国家認定(各州で受けます)、定期的な評価を受け、倫理規範を遵守する。また、臨床能力を維持するために、継続的な学習と専門的な開発が不可欠です。(つまり資格は更新制です)
✔NPはすべての州とコロンビア特別区でライセンスを取得しており、ライセンスを取得している州の規則に基づいて業務を行っています。(すべての州で公的に認められています)
とAAPNは述べている。
アメリカのナースプラクティショナーはどんなことするの?
次に米国のナースプラクティショナーが具体的にどのようなことが出来るかについて説明する。
AAPNでは、自律的に、あるいは医療専門家や他の人々と協力して、NPは以下のようなプライマリー、急性、専門的なヘルスケアサービスを提供します。
・採血などの検査やX線撮影などの指示、実施、解釈。
・糖尿病や高血圧、感染症や怪我などの急性・慢性疾患の診断と治療(医行為)。
・薬剤の処方・その他治療
・患者のケア全般の管理
・カウンセリング
・病気の予防や、健康やライフスタイルの選択について患者を教育する。
以上のようなことが出来ます。赤色で書いたことは日本の診療看護師や看護師は自分だけの判断では法律的に出来ない部分です。加えてクリニックを開業できるのも米国NPの特徴だ。
医行為については日本みたいに線引きはしておらず、各々NPの判断に任されているよう。
というか挿管とかCV挿入などの医行為なんて時代と共に変わるから、いちいち決めるのもどうかと思います。練習すればだれでもできるし。脱水の補正の輸液とかそういう包括的なのは良いですけども。
ですが、アメリカ全ての州のナースプラクティショナーが上記の判断をNPだけでできる訳ではありません。
アメリカでもNPが自律して活動できない州もある
州によってできる行為の制限があるのです。AANPのサイトから下図引用

ナースプラクティショナー 処方権 開業権 診断県 制限
上の図はアメリカ全州のNPの出来る範囲の法と規則を簡単に示したものです。アメリカでは各州が一つの国みたいなものですから、NPも州を跨げば出来ることが違ったりします。そもそも、州を跨いだら、また州のNP認定を受けないといけないです。
緑 FULLPractice
緑色の州は、州の法律により、すべてのNPは患者の評価、診断、診断テストの指示と解釈、薬や規制薬物の処方を含む治療の開始と管理を行うことが認められている。
黄色 Reduced Practice
州の法律により、NPが患者ケアを提供するために、医師や他の医療提供者と共同契約を必要としたり、NPの実践の1つ以上の要素の設定を制限したりしている。
赤色 Restricted Practice
NP が患者のケアを行うためには、医師または他の医療従事者による監督、委任、またはチーム管理を義務付けられています。
赤色の州は日本の診療看護師に近い状態かもしれませんね。緑色のFull Practiceは大体半分くらいの州が認定を受けている。緑は良く聞くアメリカのナースプラクティショナーのイメージかもしれない。
アメリカNPについての現状
アメリカのNPは11の分野・領域がある
AANPによると2021年5月現在では以下の領域と割合でNPは従事している。
日本はクリティカル領域とプライマリ領域と小児領域なので多いですよね
領域 | NPの割合(%) |
ファミリー | 69.7 |
成人 | 10.8 |
成人-老年学プライマリケア | 7.0 |
精神医学/メンタルヘルス | 4.7 |
急性期ケア | 4.1 |
小児科–プライマリケア | 3.2 |
成人-老年学急性期治療 | 2.9 |
女性の健康 | 2.9 |
老年学 | 1.8 |
新生児 | 1.0 |
小児科–急性期ケア | 0.7 |
アメリカのNPは圧倒的にプライマリーの領域が多いのが特徴だ。急性期は昨今増えているがそこまでいない。
米国NPの近況
✔2019年~2020年に新たに36,000人以上のNPが誕生している
✔NPの88.9%がプライマリーケアの分野で認定されており、全NPの70.2%がプライマリーケアを提供している。
✔常勤のNPの42.5%が病院の特権(入院を決定する権利)を持ち、12.8%が長期療養の特権(入所を決定する権利)を持っている。
✔96.2%のNPが薬を処方しており、常勤のNPは1日平均21枚の処方箋を作成している。
✔NPは全米50州とワシントンD.C.において、規制薬物を含む処方権を持ってる。
✔2020年、フルタイムのNPの基本給の中央値は11万ドル。
✔フルタイムのNPの大部分(59.4%)は、1時間あたり3人以上の患者を診ている。
✔NPは平均11年で開業している
✔平均年齢は49歳
FULLPractice医師の監視や協力もなく、基本的に独立して開業が出来る。しかし開業しているNPは全体の4%くらいのようだ(2).
アメリカでナースプラクティショナーになるには?
アメリカのナースプラクティショナーなるにはについて説明する。色々裏道があるようだが、王道を説明する。本気で目指している人はしっかり確認した方が良いだろう
看護学士(BSN)の学士号を取得する
NPになるための最初のステップは、看護学士(BSN)を取得するようだ。日本でいえば看護大学を出る必要がある。
NCLEX-RN試験に合格する
正看護師資格試験であるNCLEX-RNを受けて合格する必要がある。まずは正看護師になる必要があるのだろう。
ちなみに試験はコンピューターで行い、主に最大205の多肢選択問題と、追加の質問形式で構成され、受験者に合わせて質問の難易度を調整するようだ。日本でもこれにしてください
正看護師の経験を積む
ほとんどのNPの大学院プログラムでは、1〜2年の臨床経験が必要なようだ。
日本の診療看護師は殆どの大学院が5年の経験が必要だ。
看護大学院プログラムに登録する
ここ最近の米国の傾向として、ナースプラクティショナーになるには修士課程(MSN)じゃなく、博士課程に進まないといけない院もあるようだ。
実際は修士より博士課程は大変だし人気がないみたい。
ちなみに日本人の場合はTOEFLや細かい条件もあるようだ。こちらのブログが参考になる。
【改訂版】アメリカのナースプラクティショナー大学院への入学条件 – 米国ナースプラクティショナー(DNP)になるために
州の免許と認証を取得する
各州には独自のライセンスと要件があり、働く予定の州で認定を受ける必要があります。認証をうければその州でNPとして働くける
まとめ
以上がアメリカのナースプラクティショナーの概要だ。アメリカは圧倒的にプライマリ領域に従事するNPが多いです。現在日本ではクリティカル領域が多いですが。アメリカの制度をそのまま日本に輸入することは出来ないけれど、今後の活動の参考になれば幸いです。
気が向いたら更新します。
米国NPの歴史発展はこちらをどうぞ
参考文献
(1)塚本容子. (2016). 過去 5 年間におけるナースプラクティショナー提供医療と医師提供医療におけるアウトカムに関する系統的文献検討. 北海道医療大学看護福祉学部紀要, (23), 59-63.
(2)緒方さやか. (2010). アメリカの高齢者医療におけるナースプラクティショナーの役割と日本への提言 (ワークショップ 基調講演の概要, 研究・教育活動推進委員会: 平成 21 年度活動報告). 老年看護学, 14(2), 76-79.
(3)上月頼子. (2013). アメリカ合衆国における APRN (上級実践看護師) の免許, 資格, 許可そして教育. 石川看護雑誌, 10, 3-6.