みなさんは聴診器は何を使っていますか?看護師やその他医療従事者にとってもはや必需品の聴診器である。一応そのおすすめを紹介するページだ。
しかし、紹介する前に聴診器の歴史や今について今一度復習しよう(むしろこっちが真の本題です)
聴診器は時代遅れ?
発端は筆者がPubmedの海で暇つぶしていた時だ
Stethoscope – An essential diagnostic tool or a relic of the past?(1)
「聴診器は不可欠なツールか?または過去の遺物?」
非常に刺激的なタイトルであり、この論文に釘付けになってしまった。
この著者曰く、最近では聴診器は感染を伝播させる道具となってしまっていること
超音波やその他の医療機器の台頭によって昔ほど価値は無くなってきている。
聴診器ってそんなに必要なの?という主張である。
確かに近年では肺エコーMethodが確立してきており、肺炎や肺水腫、気胸などの感度特異度も結構良かったりする。
感染の観点から聴診器を首にかけていると、怒られたりもする。ポケットに入れるのも邪魔になるしなー
しかし、今いちど聴診器に光をあてたい。
なんたって私が看護学校に入学し一番に購入した高価な品(1万以上)聴診器なのである。
実習では苦楽を共にして、指導者に怒鳴られた時に一緒に涙を流した(ハズ)のもリットマンの聴診器であった。
新人看護師時代、お局看護師に「申し送り」をすると1時間あるいはそれ以上経っていたかもしれない。ひたすら言葉の暴力で詰められた時も、静かに一緒に寄り添ってくれたリットマンの聴診器であった。
今回は恩返しも込めて聴診器の価値を再考したいと思う。
1816年に聴診器は発明された!それまでは直接耳に当てていた
「医学の祖」と呼ばれるヒポクラテスは,患者の胸に直接耳を当てて,胸の中に溜まった液体を検出していたと言われている。
このように、耳を患者の体に直接当てていた行為は、「直接聴診法:immediate auscultation」として知られるようになり広まったようである。
しかし、
直接聴診法は呼吸器系の検査に有用であったが、男性である医師が女性に行うには憚られた。
また、肥満の患者に行うと信頼性が低いことも問題となっていた。
このような状況の中で、
ルネ・ラエンネック(1781-1826)さん
は、そこで聴診器のアイデアを思いついたのである。
下図:ルネ・ラエンネック氏:wikiより引用
1816年に聴診器を発明したのである。
ちなみに聴診器を使った聴診を【間接聴診法】という。
ラエンネックの初代聴診器は、2つの部品をネジで固定したもので、長さは約12インチ程度の物だったようだ。下図参照(2)より引用
1855年に医師のジョージ・フィリップ・カムマンにより現代の聴診器に近い両耳タイプのものが開発された。
時は流れ、
1961年にあの有名なリットマンが「An approach to the ideal stethoscope」と題した論文を発表し世に広めたのである。それ以降リットマンの聴診器は、世界中の医学生、研修医、医師の間で有名になったようだ。
聴診器は、200年前から医療には欠かせないものとなっていたのである。
聴診器が登場した当初は導入をためらう人もいたようだが(いつの時代にもいますよね。新しいことを嫌う人って)、今では看護師や医師、医療従事者の必須アイテムだろう。
しかし最近のエコーやCT、Xpの台頭により聴診器の価値は相対的に下がっていることが指摘されている。
確かに昔に比べれば臨床でも聴診器を持たない医師は内科外科問わず結構みるようになった。
また、感染面でも聴診器はやり玉にあげられている。
一回の診察につかうだけで聴診器はかなり汚染される論文や医療従事者の47%が聴診器を一度も洗浄したことがない、または年に一度しか洗浄しないという調査もあるのだ。(1)
聴診器はもう使わない方がいいのか?
確かにエコーやCTは便利だ。しかし侵襲さで言ったらCTは被爆の問題があるし、エコーはゼリーをつけないと見えない。
まだまだ聴診器は有用だと私は考える。
進化している聴診器【AIや機械学習の研究が進んでいる】
みなさんは聴診して呼吸音をしっかり分別できていますか?
2016年の研究では小児科医6人と呼吸器内科医を含む医師6人の計12人に20個のテープに録音された肺副雑音を聞き分けてもらった。ベテランの専門医達でさえWheeze、rhonchi、FineやCorseまで聴き分けてもらうと一致率がかなり低いことが分かったのである。また、rhonchiやwheezeの連続性(κ=0.59)かfineかcorseなどのクラックルである断続性(κ=0.62)のどちらかに絞ると一致率は高いことも分かった。(9)
結構呼吸音って難しんですよね。管理人もぶっちゃけ細かい違いはよくわからん、、、。
ところが、最近ではAIや機械学習を使い電子聴診器で呼吸音や心音を聞き分けるという研究が進んでいる(3)
市販の電子聴診器で録音し、心臓弁膜症を検出するため深層学習アルゴリズムの性能を評価した研究では、
解剖学的に適切な聴診部位にアルゴリズムを適用したところ,感度93.2%,特異度86.0%の中等度以上の大動脈弁狭窄症と,感度66.2%,特異度94.6%の中等度以上の僧帽弁閉鎖不全症が検出された。
音を聞かせるだけで(個人的には)難しい心音が高い精度で診断できるのである。(4)
2種類のデジタル聴診器(Clinicloud™およびLittman™)を使用して小児から収集した190の聴診記録をAIにかけて分析した場合と小児科医二人との一致率は
肺副雑音のクラックルではClinicloudでは陽性一致率(PPA)は0.95、陰性一致率(NPA)は0.99、Littmanでは、PPAは0.82、NPAは0.96であった。
wheezeはClinicloudはPPAは0.90、NPAは0.97、LittmanはPPAは0.80、NPAは0.95とかなり高い一致率を見せたのである。(5)
ちなみにClinicloudはこれである 引用サイト;CliniCloud Digital Stethoscope
めっちゃオシャンやん、めっちゃほしいー!
Littman 参考URL:リットマン エレクトロニック ステソスコープ 3200BK27
あーこれねー
AIやマシンの力でここまで来たか!
という感じでこれからは胸に聴診器を当てるだけでどのような肺副雑音か?心雑音かがすぐにわかるかもしれない。
(それって、もはや我々のやっている聴診とは違うような、、、ノンノン!時代の進化です!)
感染を媒介させる欠点も克服するだろう
まさにCOVID-19 に画期的な聴診器が臨床に投入されたようである。
COVID-19病棟では,遠隔医療システムを搭載した新しい無線聴診器を使用し,レッドゾーンとグリーンゾーンの間でリアルタイムに肺音を録音し共有することに成功したと報告(6)
下図(6)より引用
これはBluetoothなどを利用した遠隔聴診である!もはやダイヤフラム(患者に当てるところ)は持ち運ばなくて良いのである!患者専用にできる。
また、Bluetooth接続の電子聴診器を用いたリアルタイム聴診の有用性を一般的な聴診器と比較して研究では肺音、心音ともBluetooth接続の電子聴診器を用いたリアルタイム遠隔聴診システムは、胸膜摩擦摩擦の分類を除き、従来の聴診器と同等であったと報告されている。(7)
下図(7)より引用
遠隔聴診の性能も問題がないことが示されているのだ。
でも電子聴診器ってめちゃくちゃ高いんでしょ?
諦めたらそこで終了だよ!
インドを見習え!
インドの研究者らは、従来の聴診器を遠隔聴診器に改造するため簡単な低コスト(ほぼゼロコスト)の方法を開発したんだって!(8)
下図(8)より引用
マイク付きイヤホンに聴診器をくっつけてスマホで録音!
これ聴診器と百均で行けるね!
という感じで聴診器も現在かなり進化してきており、胸部に当てるだけで音を録音してAIが判断してくれる可能性があるのだ!
聴診器の未来は明るいのだ!
おすすめの聴診器を紹介
とはいってもそれはまだ先の話でまだまさアナログ聴診器が活躍するだろう。
ここで管理人がおススメする聴診器を紹介しよう(やっとかよ)
研究でも使用された確かな聴診器がある
Transmission of Lung Sounds through Light Clothing
リットマン・クラシックとリットマン・マスター・カーディオロジーである
この研究ではシャツ何枚まで着ても音は減弱しないの?という研究をしている。
そしてこの二つの聴診器が使用されたのだ。シャツ2枚なら240gの中くらいの力で聴診器をつければ音は減衰はあまりないよ!という事が証明された。
この研究ではマスター・カーディオロジー方が少し成績が良かった。
まぁリットマンならどれもおすすめだが、こういう研究も参考にするとマスター・カーディオロジーがおすすめだ。その次にクラシックを購入しよう。
学生時代、新人看護師時代苦楽を共にしたクラシックである。最後は行方不明になりました。多分ヴァルハラの地へ旅立たれたのであろう。
管理人も何だかんだでマスターカー使いであるが、めちゃくちゃ高いのでクラシックで満足できなくなった人が購入した方が良いかもしれない。またこういうのは安くなった中古がありますからね!
使用済が抵抗あるなら新品をおすすめします。
紹介短くて済みません。最後まで読んでくださりありがとうございます。
完全なネタページでした。
参考文献
(1)Qamar, S., Tekin, A., Taweesedt, P. T., Varon, J., Kashyap, R., & Surani, S. (2021). Stethoscope – An essential diagnostic tool or a relic of the past?. Hospital practice (1995), 1–5. Advance online publication.
(2)Bishop PJ. Evolution of the stethoscope. J R Soc Med. 1980 Jun;73 (6):448–456
(3)Fraiwan, M., Fraiwan, L., Khassawneh, B., & Ibnian, A. (2021). A dataset of lung sounds recorded from the chest wall using an electronic stethoscope. Data in brief, 35, 106913.
(4)Chorba, J. S., Shapiro, A. M., Le, L., Maidens, J., Prince, J., Pham, S., Kanzawa, M. M., Barbosa, D. N., Currie, C., Brooks, C., White, B. E., Huskin, A., Paek, J., Geocaris, J., Elnathan, D., Ronquillo, R., Kim, R., Alam, Z. H., Mahadevan, V. S., Fuller, S. G., … Thomas, J. D. (2021). Deep Learning Algorithm for Automated Cardiac Murmur Detection via a Digital Stethoscope Platform. Journal of the American Heart Association, 10(9), e019905
(5)Kevat, A., Kalirajah, A., & Roseby, R. (2020). Artificial intelligence accuracy in detecting pathological breath sounds in children using digital stethoscopes. Respiratory research, 21(1), 253.
(6)Noda, A., Saraya, T., Morita, K., Saito, M., Shimasaki, T., Kurai, D., Nakamoto, K., & Ishii, H. (2020). Evidence of the Sequential Changes of Lung Sounds in COVID-19 Pneumonia Using a Novel Wireless Stethoscope with the Telemedicine System. Internal medicine (Tokyo, Japan), 59(24), 3213–3216
(7)Hirosawa, T., Harada, Y., Ikenoya, K., Kakimoto, S., Aizawa, Y., & Shimizu, T. (2021). The Utility of Real-Time Remote Auscultation Using a Bluetooth-Connected Electronic Stethoscope: Open-Label Randomized Controlled Pilot Trial. JMIR mHealth and uHealth, 9(7), e23109.
(8)Kalra, S., Mutreja, P., Goyal, A., & Dixit, A. (2020). A low-cost solution for converting existing stethoscope into tele-stethoscope in resource-constrained setting for COVID-19 pandemic. Journal of family medicine and primary care, 9(11), 5435–5436.
(9)Melbye, H., Garcia-Marcos, et at al(2016). Wheezes, crackles and rhonchi: simplifying description of lung sounds increases the agreement on their classification: a study of 12 physicians’ classification of lung sounds from video recordings. BMJ open respiratory research, 3(1)
※引用論文の写真はオープンジャーナルなので是非閲覧してみてください。