「ちょっと待って、この点滴つないだらすぐトイレ行くから…!」
……そう心に誓ったはずなのに、病室を出た瞬間にナースコールが鳴り響いて、気づけば申し送りの時間になっていた時の絶望感。看護界隈の若手なら誰しも身に覚えがありますよね。日勤でも夜勤でも、周りの先輩たちがバタバタ走り回っていると「自分だけトイレに抜けるの申し訳ないかも…」って遠慮しちゃう気持ち、わかりみが深すぎる。だけど、限界まで我慢し続けたあと、トイレに駆け込んで「うっ…下腹部が痛い…!?」って一人で青ざめるのって、ガチで現場あるあるですよね。
トイレを我慢するのって、看護師なら仕方ない職業病だと思います?
水分を減らしてトイレの回数を削るのって、本当に体にいいのか気になりません?
これって🦐えび🦐あるの?中国1.3万人調査とオーストラリアの論文を見ていきましょう!
勤務中にトイレを我慢すると、看護師の膀胱は傷むのか?

簡単なまとめ: 中国の大規模調査では、女性看護師13,191人のうち51.1%が下部尿路症状を報告していた。同じ調査では、1日の水分が500mL以下の人より、1500mLを超える人の方が症状が少なかった。過密な業務負荷と症状をつなぐ要因として、排尿を遅らせる行動が統計的に確認されている。オーストラリアの調査でも、勤務中に排尿を遅らせた看護師が77.1%にのぼり、仕事中の集中力低下の自覚オッズ比が約8倍高かった。
出典: Renら 2023、Raoら 2024、Gaoら 2024、Pierceら 2019
若いナースの半分が膀胱の不調を抱えているのか?
「トイレを我慢するなんてみんなやってるし、若いから寝れば治るっしょ!」と思っていませんか。
中国の20の三次病院で働く女性看護師13,191人を調べた大規模な疫学調査がある (1)。ここで調べられているのは、急に我慢できない尿意が来る、咳やくしゃみで漏れる、夜中に何度も起きる、尿の出が悪くなるといった症状の数々だ。医学用語ではまとめて「下部尿路症状(LUTS)」と呼んでいる。
この調査で、実に 51.1% の看護師が何らかの症状を抱えていると回答していた (1)。調査対象の平均年齢は32.7歳で、全体の8割以上(82.9%)が40歳未満の若いナースたちだ。
うーむ、平均32歳そこそこで40歳未満が8割以上を占める若い集団なのに、半分が症状ありというのはさすがに加齢のせいでは片付けられない。
具体的にどんな症状が多いのかを見ると、急に激しい尿意が襲ってくる尿意切迫感が 26.1% と、およそ4人に1人にみられた (1)。さらに、咳やくしゃみ、重いものを持ち上げたときに漏れてしまう腹圧性尿失禁も 17.9% と、およそ5人に1人が経験していたのだ (1)。
日勤帯で患者さんの車いす移乗介助をしている最中、下腹部にグッと力が入った瞬間に「あっ…やばいかも…」と冷や汗をかいた経験がある人は少なくないはず。調査では、週40時間を超えて働く人や、病床あたりの看護師比率が低くて人手が手薄な病院で働く人ほど、症状を訴える割合が高かったと報告されている (1)。
忙しいから症状が出るのか、我慢するから出るのか?
「病棟が忙しくてバタバタ走り回っているから、疲労で症状が出るんじゃないの?」と思いますよね。
同じ研究グループが2024年に発表した分析では、業務の忙しさと膀胱トラブルの関係をさらに詳しく調べている (2)。
その分析によると、残業や過密な勤務形態といった客観的な業務負荷は、直接膀胱を傷つけるというより「トイレに行くのを遅らせる行動」を挟むことで症状につながっていた (2)。一方で、仕事で感じる精神的なストレスそのものは、排尿を我慢するかどうかにかかわらず直接症状を悪化させる要因として残っていたのだ (2)。
つまり、忙しさそのものもさることながら、「忙しいからといって尿意を先延ばしにする行動」が膀胱への負担を大きくしていたわけだ。著者らは、排尿を遅らせる行動を減らす対策と、職場のストレスそのものを下げる対策の両方を並べて進めることが大切だと述べている (2)。
さらに、症状を抱えている看護師6,735人を対象とした別の分析では、勤務中にトイレを我慢することがあると答えた人が 69.9% と、およそ7割に達していた (3)。
重症度のパターンごとに分けた分析でも、複数の重い症状を抱えるグループでは、実に 81.5% の人が排尿を遅らせていた (3)。夜尿症状が中心の軽症グループと比べると、重症グループで排尿を遅らせるオッズ比はおよそ3.4倍(調整オッズ比 3.37)に達していたのだ (3)。
尿意を感じているのに「キリのいいところまで…」と限界まで我慢し続けると、膀胱の筋肉が過剰に引き伸ばされてしまい、尿を溜めたり押し出したりする感覚センサーが狂ってしまう。いわゆる「ナース膀胱」と呼ばれる状態だけど、我慢を重ねて勤務を乗り切るのはガチで割に合わないと実感する数字だ。
水分を減らせばトイレ我慢はラクになるのか?
「トイレに行く暇がないなら、最初からお茶や水を飲まなきゃいいじゃん!」と水分を削っていませんか。
ナースステーションのワゴンに持ち込んだお茶のペットボトルが、朝置いた時のまんま夕方まで手つかずで放置されて、室温でぬる燗みたいになっている風景、病棟では日常茶飯事ですよね。
だけど、13,191人の調査データを見ると、水分摂取量が1日500mL以下の看護師に比べて、1日1500mLを超えて水分を摂っている看護師の方が、下部尿路症状を訴える割合が有意に低かった(オッズ比 0.732)(1)。全体の7割以上(73.7%)の看護師が1日の水分摂取量を1500mL以下に抑えてしまっていたけれど、水分を削る自衛は体にとって逆効果になりやすいわけだ (1)。
水分を極端に控えると、尿が濃縮されて膀胱の内側の粘膜を強く刺激してしまう。そのせいで余計に急な尿意を感じやすくなったり、膀胱炎の原因になる細菌が洗い流されずに繁殖しやすくなったりする。トイレの回数を減らそうとして水を控えた結果、余計に切迫感に苦しむなんて、完全に本末転倒じゃね?とツッコミを入れたくなるところだ。
ちなみに、夜勤中の疲労や体調管理については 夜勤の仮眠時間 の記事でも触れているけれど、睡眠不足で自律神経が乱れると排尿コントロールも余計に乱れやすくなるため、体を休める工夫とセットで考えたい。
トイレを我慢すると、仕事のパフォーマンスまで落ちるのか?
「トイレを我慢するくらい、気合で乗り切れるっしょ!」と思っているなら、オーストラリアの研究結果も見てほしい。
オーストラリアの女性看護師と助産師353人を対象に行われた調査では、勤務中に排尿を遅らせた経験がある人が 77.1% にのぼっていた (4)。勤務中にどうしてもトイレに行けなかった人がおよそ5人に1人(22.4%)、水分をあえて制限した人がおよそ4人に1人(26.9%)いて、勤務中に尿の症状を自覚した人は 46.7% だった (4)。
注目したいのは仕事への影響だ。勤務中に排尿を我慢している看護師は、そうでない看護師に比べて、仕事中に「集中力が落ちた」と自覚するオッズ比が約8倍(オッズ比 7.94)も高かった (4)。さらに、水分を制限している看護師は、業務の時間管理がうまくいかないと感じるオッズ比がおよそ4倍(オッズ比 3.97)高かったのだ (4)。
この研究で医療事故そのものの発生数を測っているわけではないけれど、膀胱がパンパンに張り詰めて尿意と戦っている最中に、患者さんの点滴速度の計算や指示受けの確認を落ち着いてこなすのは誰だって厳しい。頭の片隅が「早くトイレに行きたい」で埋め尽くされている状態では、業務に集中しきれなくなる実感は現場ナースなら頷けるはずだ。
中国の済南で行われた636人の看護師を対象とした調査でも、トイレの場所や姿勢の好み(公衆トイレの清潔さを気にするか等)よりも、「我慢する」「排尿時に無理にいきむ」「尿意がないのに先回りして出す」といった排尿行動の乱れそのものが、下部尿路症状と有意に関連していた (5)。
排尿トラブルを抱える看護師には腰痛の訴えも多く、オーストラリアの調査でも対象者の 61.5% が腰痛を経験していた (4)。看護師の腰痛予防 と同じで、「自分の体のケアを後回しにして業務を優先する」という現場の自己犠牲が、あちこちに不調を呼んでいる構図はそっくりだ。
限界点も知っておこう
紹介した研究の限界(リミテーション)も冷静に確認しておこう。
中国の調査(Renら、Raoら、Gaoら)もオーストラリアの調査(Pierceら)も、ある一時点の状態を調べた横断研究だ。そのため、「トイレを我慢したから症状が出たのか」、それとも「もともと頻尿や切迫感があるから勤務中に我慢せざるを得なかったのか」という厳密な因果関係の先後までは確定できない (1)(4)。
また、いずれの研究もアンケートによる自己記入式の回答に基づいているため、個人の記憶のズレや主観による偏り(想起バイアス)が含まれる可能性がある。
調査対象は中国の大規模三次病院やオーストラリア都市部の病院で働く女性看護師が中心だ。男性看護師への当てはまりや、日本の診療報酬制度における看護配置基準(7対1や10対1など)のもとで働く現場に、そのまま全く同じ割合が当てはまるとは限らない。
さらに、妊娠・出産の経験や、もともとの婦人科系・泌尿器系の持病の有無によっても下部尿路症状の出方は大きく異なる。
勤務中の休憩取得や業務管理に関する規程がある場合は、まず自施設の安全衛生ルールや職場マニュアルを確認してほしい。
今後どうしていくべきなの?
明日からの日勤や夜勤の勤務で、自分の膀胱を守るために具体的にどう動くべきか。
もちろん、患者さんの急変や心肺蘇生、転倒直後の処置など、一刻を争う緊急事態ではケアが最優先になる。命に関わる場面でトイレを優先しろ、という話ではない。
だけど、定時の記録を入力している時間や、「ちょっとこれ手伝って」と頼まれた雑務まで全部一人で抱え込んで、限界までトイレを我慢するのは今日で終わりにしよう。
明日からの現場で実践できる具体的なアクションは次の通りだ:
- 「ちょっとトイレ行ってきます!」を堂々と言い合える空気をつくる
「自分が抜けると申し訳ない」と一人で抱え込むのが一番危ない。ナースコール対応や急な呼び出しは、ペアの看護師やチームメンバーに「1分だけトイレ行ってきます、コールお願い!」と声をかけてカバーし合う関係をつくっておく。
- 水分を削らず、少量ずつこまめに飲む
トイレを減らすために水を飲まないのは逆効果になりやすい。喉が渇いてから一気飲みするのではなく、ラウンドの前後や記録の合間に、1回につき100〜150mL程度をこまめに補給する。1日を通してしっかり水分を摂る習慣を目指したい (1)。
- 尿意を感じたら我慢せず、できるだけ早めに行く
「次の処置が終わってから」と先延ばしにせず、尿意の第1波が来たらキリをつけてトイレに向かう。膀胱を限界まで引き伸ばす回数を減らすことが、膀胱への余計な負担を防ぐ助けになる (2)(3)。
- 症状が続くときは我慢せず受診する
急な強い尿意で間に合わなくなりそう、排尿するときに痛みや違和感がある、残尿感が抜けないといった症状が続くなら、無理に市販薬でごまかさず、病院の産業保健スタッフに相談するか泌尿器科を受診してほしい。
「我慢は美徳」なんて言葉があるけれど、看護師の膀胱に関しては我慢しても1ミリの徳もないどころか、集中力が削られて業務がキャパい状態では草も生えない。「患者さんの安全を守るためにも、まず自分の膀胱を空にしておく!」くらいの気持ちで、堂々とトイレに行けるナースを目指していこう。
この記事は一般的な研究の紹介であり、個別の診断や治療の代わりではありません。排尿に関する強い症状が続く場合は、医療機関の専門医への受診を優先してください。
✔まとめ
✔ 中国の女性看護師13,191人の調査では、51.1%が下部尿路症状を報告していた (1)
✔ 過密な業務負荷と症状をつなぐ要因として、排尿を遅らせる行動が統計的に確認された (2)
✔ 水分摂取が1日500mL以下の人より、1500mLを超える人の方が症状が少なかった (1)
✔ オーストラリアの調査では、勤務中にトイレを我慢している看護師は集中力低下の自覚オッズ比が約8倍高かった (4)
✔ 水分を削る自衛は逆効果になりやすく、チームで声を掛け合って早めにトイレへ行く環境づくりが大切である (1)(4)
個人的には、ナースコールを取るのも大切だけど、尿意を押し殺してまでコールに走り続けるのはやめたい。膀胱がパンパンな状態ではどんなベテランでも集中力が落ちる。チームメンバーに「トイレ行ってくるね!」と元気に声をかけて交代できる病棟の方が、結果的に患者さんの安全もしっかり守れるはずだ。
よくある質問
Q. 勤務中にトイレを我慢すると、看護師の膀胱は傷むのか?
A. 中国の大規模調査では、女性看護師13,191人のうち51.1%が下部尿路症状を報告していた。同じ調査では、1日の水分が500mL以下の人より、1500mLを超える人の方が症状が少なかった。過密な業務負荷と症状をつなぐ要因として、排尿を遅らせる行動が統計的に確認されている。オーストラリアの調査でも、勤務中に排尿を遅らせた看護師が77.1%にのぼり、仕事中の集中力低下の自覚オッズ比が約8倍高かった。
Q. トイレに行く回数を減らすために、水分を控えるのは効果的ですか?
A. 水分を控えるのは逆効果になりやすい。中国の調査では、水分摂取が1日500mL以下の人よりも1500mLを超える人の方が排尿症状が少なかった。水分を制限すると尿が濃縮されて膀胱粘膜を刺激し、余計に切迫感や頻尿を招く恐れがある。こまめな水分補給が推奨される。
Q. トイレを我慢すると仕事のミスにつながりますか?
A. オーストラリアの調査では、勤務中に排尿を遅らせた看護師は、そうでない看護師に比べて仕事中に集中力の低下を感じるオッズ比が約8倍高かった。強い尿意を抱えた状態では注意力が散漫になりやすいため、安全にケアを行う観点からも我慢せず排尿することが重要である。
処置やナースコールに追われて「この処置終わったら…」とトイレを先送りしがちですが、排尿を遅らせる行動や水分を削る自衛は下部尿路症状(LUTS)と結びつきやすいことが知られています。病棟でLUTSの理解やアセスメント、排尿日誌、行動療法、排尿ケアチーム連携を手元で引き直すなら、『改訂版 下部尿路機能障害の治療とケア:病態の理解と実践に役立つ』(谷口珠実・武田正之 編著、メディカ出版、2023年)が手軽です。本書は下部尿路機能障害の病態理解と実践ケアの補助であり、読めば症状が治るといった効果を保証するものではありません。個人の診断や治療、勤務中のトイレ確保を含む最終判断は施設の看護手順・一次エビデンス・医師指示が最優先であり、本は補助としてご活用ください。

参考文献
(1) Ren, J. Q., Li, M., Xu, D. J., Gao, J., Chi, J. T., Yuan, M., Lin, X. F., Du, H. X., Wu, C., & Wang, K. F. (2023). Lower urinary tract symptoms in female nurses: Evidence from the Nurse Urinary Related Health Study of China. Journal of Nursing Management, 2023, 9207120. https://doi.org/10.1155/2023/9207120
(2) Rao, Y., Wu, C., Xu, D., Zhu, Y., Ma, J., Mou, J., Gao, J., Ren, J., Li, M., & Wang, K. (2024). Nursing workloads and lower urinary tract symptoms among Chinese female nurses: The mediating role of delayed voiding behaviors. The Journal of Urology, 211(5), 699–706. https://doi.org/10.1097/JU.0000000000003862
(3) Gao, J., Xu, D., Wu, C., Li, M., Ren, J., Rao, Y., & Wang, K. (2024). Work-related stress and behavioural correlates of lower urinary tract symptom profiles in female nurses: A latent class analysis based on the Nurse Urinary Related Health Study. Journal of Nursing Management, 2024, 7318901. https://doi.org/10.1155/2024/7318901
(4) Pierce, H., Perry, L., Chiarelli, P., & Gallagher, R. (2019). Delaying voiding, limiting fluids, urinary symptoms, and work productivity: A survey of female nurses and midwives. Journal of Advanced Nursing, 75(11), 2579–2590. https://doi.org/10.1111/jan.14128
(5) Wan, X., Wu, C., Xu, D., Huang, L., & Wang, K. (2017). Toileting behaviours and lower urinary tract symptoms among female nurses: A cross-sectional questionnaire survey. International Journal of Nursing Studies, 65, 1–7. https://doi.org/10.1016/j.ijnurstu.2016.10.005



