「ICU(集中治療室:重症患者を24時間体制で治療管理する専門病棟)の患者さん、熱発38.8℃出てる!アイスバッグ(氷嚢:氷と水を入れて患部を冷やす袋)と保冷剤で、首と脇の下をガッツリ冷やしておきますね…!」
夜勤帯の病棟や集中治療室、モニターの体温アラームがピピピッと鳴ると、冷凍庫へダッシュして両手いっぱいに保冷剤を抱えてベッドサイドへ走る姿、めちゃくちゃ分かります。
でも、保冷剤を当てられた患者さんがガタガタ震え出したり「寒い!」と顔をしかめたりして、「これ、良かれと思って冷やしてるけど逆効果じゃね…?」って不安になったことありません?
これって🦐えび🦐あるの?集中治療の診療指針や大規模な臨床研究を見ていきましょう!

成人ICU患者の発熱に氷枕や保冷剤のクーリングは効果があるの?
簡単なまとめ: 成人集中治療室(ICU:重症患者を24時間体制で治療管理する専門病棟)の発熱患者に対し、氷枕や保冷剤などの表面冷却や解熱薬で体温を平熱に下げても、死亡率の低下や集中治療室滞在日数の短縮といった予後改善効果は示されていません。感染で脳の体温目標値が上がっているときに体表だけを冷やすと、激しい身震い(シバリング:筋肉を小刻みに震わせて熱を産生する生体反応)や末梢血管の収縮を誘発し、代謝ストレスを増加させる危険があります。日本版敗血症診療ガイドライン2024(J-SSCG:日本集中治療医学会などが策定した敗血症治療の標準指針)でも、発熱を伴う敗血症に対してルーチンの解熱療法を行わないことが推奨されています。
出典: J-SSCG 2024、Youngら 2015、Schortgenら 2012、Holgerssonら 2022
根拠(集中治療ガイドラインと臨床試験)
ガイドラインは成人重症患者のルーチン解熱を推奨しているの?
「熱が出たらまず下げるのが看護の基本でしょ!」って、新人時代から当たり前のように教わってきた人、多いですよね。
だけど、集中治療のガイドラインを開くと、まったく逆のことが書かれています。
日本集中治療医学会と日本救急医学会が合同でまとめた日本版敗血症診療ガイドライン2024(J-SSCG2024)のクリニカルクエスチョン(CQ:ガイドラインが設定する臨床上の重要課題)6-4では、「発熱を伴う敗血症に対して、解熱療法を行わないことを弱く推奨する(グレード基準[GRADE:エビデンスの質や推奨の強さを国際的に評価する仕組み]2C)」と明記されています(1)。
ここでの解熱療法には、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs:熱や痛みを抑える飲み薬や座薬などの炎症止め)やアセトアミノフェンといった解熱薬だけでなく、氷枕や保冷剤、冷却シートなどの物理的冷却も含まれます。
米国集中治療医学会(SCCM:集中治療領域の診療指針を策定する米国の専門学会)と米国感染症学会(IDSA:感染症診療の指針を策定する専門学会)が2023年に発表した成人ICU新規発熱評価ガイドラインでも、「発熱のある重症患者に対し、単に体温を下げる目的でのルーチンな解熱薬投与は避けることを提案する(弱推奨)」と示されました(5)。
うーむ、日頃の勤務で「38.5℃超えたら指示受けしてアセリオ落として氷枕」と機械的に動いていた身からすると、ガイドラインに「ルーチンで下げるな」とバシッと書かれているのは結構な衝撃ですよね。発熱そのものは白血球の働きを助けたり細菌の増殖を抑えたりする生体防御反応なので、平熱の数字に揃える作業そのものは患者さんを救う治療になっていない、というのが現代の集中治療のスタンダードになりつつあります。
氷枕や保冷剤で体表だけ冷やすと何が起きるの?
「薬で無理に下げるのが微妙なら、せめて氷枕や脇の下の保冷剤で冷やすくらいは害がないでしょ?」って思いがちですよね。
実は、この「外側からの冷却」こそが、患者さんに強い負担をかける落とし穴になります。
感染症の熱は、脳の視床下部にある体温調節中枢が「今は体を戦わせるために体温の設定温度(セットポイント)を39℃に上げるぞ!」と指令を出している状態です。
設定温度が39℃にセットされているのに、外から氷枕や保冷剤を当てて皮膚を冷やすと、脳のセンサーは「せっかく39℃に上げようとしているのに、外から急激に冷やされた!体温が奪われてしまう!」と危機を感じます。
その結果、体温を逃がさないように末梢血管をギュッと収縮させ、全身の筋肉をガタガタと震わせて熱を作ろうとする「シバリング」が起きます。
脳の設定温度を変えずに深部体温を下げようとすると、シバリングや頻脈、末梢血管の収縮が引き起こされ、生体の代謝ストレスが増加してしまいます(4)。
敗血症や呼吸不全でギリギリの酸素需給バランスで保っている集中治療室の患者さんにこれをやると、酸素飽和度がガクッと下がったり乳酸値が跳ね上がったりして、かえって状態を悪化させかねません。

Schortgenらが昇圧薬を必要とする敗血症性ショックの成人発熱患者200人(体外冷却群101人、非冷却群99人)を対象に行ったランダム化比較試験(RCT:効果を公平に比較するために患者をくじ引きのように分ける研究)であるSEPSICOOL試験(敗血症性ショック患者に対する体外冷却療法の効果を検証した臨床試験)があります(3)。この試験では、主要評価項目である48時間での昇圧薬投与量50%減の達成率(72% vs 61%)に有意差はなかったものの、12時間時点での投与量減少(54% vs 20%)や14日死亡率(19% vs 34%)は冷却群で有意に良好でした(なおICU死亡率や病院死亡率には差がありませんでした)(3)。
しかし、この試験の対象は人工呼吸器管理下で鎮静薬を投与されている重症患者であり、筋弛緩薬の使用割合も両群で同程度でした(3)。鎮静されていない一般病棟の患者さんとは前提がまったく違います。
目を覚ましている患者さんや、鎮静されていない患者さんに保冷剤や氷枕を当てても、シバリングや強い悪寒、不快感といった害ばかりが際立ってしまいます。
良かれと思って両脇と首に保冷剤を挟んだら、患者さんが「寒い寒い!」と歯をガチガチ鳴らし始めて慌てて毛布を2枚重ねて掛け直すという、冷凍庫とリネン室を往復しただけの謎の深夜マラソン、まさに夜勤あるあるじゃね?って苦笑いしたことあります。
解熱薬(アセトアミノフェン)で熱を下げればICUを早く出られるの?
「じゃあ、脳の設定温度を下げるアセトアミノフェンなら、ルーチンでガンガン使った方が治りが早いんじゃない?」という疑問も湧きますよね。
この疑問に対して決定的なデータを叩き出したのが、2015年に発表された有名なHEAT試験(発熱のある重症感染症患者に対するアセトアミノフェンの効果を検証した大規模臨床試験)です。
ニュージーランドやオーストラリアの研究チーム(Youngら)は、感染が疑われる38℃以上の成人ICU患者700人を対象に、二重盲検によるランダム化比較試験を実施しました(2)。
患者さんを「静注アセトアミノフェン1gを6時間ごとに投与する群(345人)」と「5%ブドウ糖液のプラセボ群(344人)」にランダムに割り付け、集中治療室を離脱できた日数などを比較しています。
その結果:
- 28日目までの集中治療室離脱日数(中央値):アセトアミノフェン群23日 vs プラセボ群22日(p値[偶然にその差が生じる確率]=0.07で統計的有意差なし)
- 90日死亡率:アセトアミノフェン群15.9%(55/345人) vs プラセボ群16.6%(57/344人)、相対リスク(RR:ある介入によってイベントが起きる割合が何倍になるかを示す数値)0.96(95%信頼区間[CI:データのばらつきの幅を示す統計の範囲]0.66〜1.39、p値=0.84で有意差なし)
体温の推移を見ると、アセトアミノフェン群の方が体温は平均0.25〜0.5℃ほど低く推移していましたが、集中治療室を早く出られたり命が助かりやすくなったりする効果はまったく認められませんでした(2)。
さらに、Holgerssonらが2022年に発表したシステマティックレビュー(特定のテーマに関する複数の研究を網羅的に集めて分析した論文)とメタアナリシスでは、発熱のある成人患者を対象としたRCT 42件・5,140人(うち重症患者は3,007人)を統合して検証しています(4)。
そのうち死亡率を報告していた16試験・2,415人を統合した解析では、解熱薬や物理的冷却を含む解熱介入を行った群と行わなかった群で、死亡の相対リスクは 1.04 (95%CI 0.90〜1.19)であり、死亡率を減らす効果は見出せませんでした(4)。
まぁ、700人規模の質の高い試験や5,000人規模のメタアナリシスでここまで差が出ないと、「とりあえず熱があるから解熱薬を入れて平熱にしなきゃ!」と躍起になる根拠は薄いかぁ、と納得せざるを得ない数字ですよね。

なお、正確に体温を把握するための測定部位(側臥位での測定など)については、側臥位での体温測定の記事 で詳しく解説しています。また、医師から血液培養のオーダーが出ている場合は、解熱薬や抗菌薬を投与する前に確実に2セット採血を済ませておくのが鉄則です。
限界点も知っておこう
今回のエビデンスは、「感染症に伴う一般的な発熱」を対象にしたものです。すべての体温上昇でクーリングや解熱が無意味というわけではありません。
まず、心肺蘇生後の心停止後症候群(PCAS:心肺蘇生で心拍再開した後に脳や全身に起こる様々な障害)の患者さんや、急性期脳損傷(脳出血、くも膜下出血、重症頭部外傷など)の患者さんに対する目標体温管理療法(TTM:脳を守るためにカテーテルや専用冷却パッドで体温を厳密に保つ集中治療)は完全に例外です。中枢神経障害における高熱は二次的な脳障害を悪化させるため、厳格な平熱維持や低体温療法が求められます。
また、熱中症や悪性高熱症のように「体温調節機能そのものが破綻して体温が跳ね上がり続けている病態」では、体の外から一刻も早く熱を奪う積極的な物理冷却が生死を分けます。
さらに、体温が40℃を超える過度な高熱や、極度の頻脈・重篤な心機能低下があって「発熱による代謝亢進そのものが循環破綻を招いている」と医師が判断した状況では、心負荷軽減や苦痛緩和を目的とした解熱処置が行われます。

各病院や病棟のプロトコル(手順書)の確認が第一です。「熱が出たら即座に冷やす」というルーチンの手順が残っている施設もまだ多いはずなので、現場の手順書と主治医の治療方針を事前にしっかり確認しておきましょう。
今後どうしていくべきなの?(手順・例外・判断基準)
現場で熱発患者さんに出会ったときの、実践的な4つの判断ステップです。

- 患者さんの相(悪寒期か熱期か)を見極める: 手足が冷たく、ガタガタ震えて悪寒を訴えている「体温上昇期(悪寒期)」に氷枕や保冷剤を当てるのは絶対にしてはいけません。この時期は掛け物を増やして保温し、震えを鎮める手助けをします。熱が上がりきって末梢血管が開き、患者さん自身が「暑い、汗をかいて気持ち悪い」と訴える「極熱期・解熱期」になって初めて、本人が「気持ちいい」と感じる範囲で頭部に氷枕を敷くなどの安楽ケアを提供します。
- ルーチンの「38.5℃以上=即クーリング」をやめる: 数字だけを見て反射的に冷凍庫へ走り、頸部や腋窩に保冷剤を敷き詰めるケアは見直します。患者さんが穏やかに眠れていて循環動態も保たれているなら、無理に体表を冷やす必要はありません。
- 解熱薬は「数字を消すため」ではなく「苦痛緩和」で使う: アセトアミノフェンなどの指示を使う場合も、体温計の数字を平熱にするのが目的ではなく、頭痛や全身倦怠感、頻脈によるつらさを和らげるための「対症療法」として位置づけます。指示薬を使う前には、指示された血液培養の採取が済んでいるかも必ず確認します。
- TTM適応や頭部疾患、過熱の例外を把握しておく: 脳疾患の既往や心停止後、40℃超の過熱、重度の心不全など「熱そのものが致命傷になる病態」がないかをカルテで確認し、例外的な体温管理が必要な患者さんを見落とさないようにします。
✔まとめ
- 成人集中治療室(ICU:重症患者を24時間体制で治療管理する専門病棟)の発熱管理において、氷枕や保冷剤による表面冷却やルーチンの解熱薬投与が死亡率を下げたり滞在日数を短縮したりするエビデンスはない。
- 脳の設定温度が上がっている状態で体表だけを冷やすと、激しい身震い(シバリング:筋肉を小刻みに震わせて熱を産生する生体反応)や頻脈、末梢血管収縮を招き、代謝ストレスを増加させる危険がある。
- 日本版敗血症診療ガイドライン2024(J-SSCG:日本集中治療医学会などが策定した敗血症治療の標準指針)でも、発熱を伴う敗血症に対するルーチンの解熱療法は行わないことが推奨されている。
- 発熱ケアの主役は「数字を平熱に戻すこと」ではなく、「悪寒期の保温」と「患者さんの苦痛緩和(安楽の提供)」である。
個人的には、熱発の数字を見た瞬間に反射的に冷凍庫へダッシュする習慣を手放すだけで、夜勤の無駄なバタバタがかなり減って、患者さんの観察にしっかり集中できるようになる気がします。保冷剤でガタガタ震えさせてしまうより、つらい時期を見極めてそっと掛け物を調節してあげられるナースの方が、ずっと患者さんに優しいですよね。
よくある質問
Q1. 成人ICU患者の発熱に氷枕や保冷剤のクーリングは効果があるの?
A. 成人集中治療室(ICU:重症患者を24時間体制で治療管理する専門病棟)の発熱患者に対し、氷枕や保冷剤などの表面冷却や解熱薬で体温を平熱に下げても、死亡率の低下や集中治療室滞在日数の短縮といった予後改善効果は示されていません。感染で脳の体温目標値が上がっているときに体表だけを冷やすと、激しい身震い(シバリング:筋肉を小刻みに震わせて熱を産生する生体反応)や末梢血管の収縮を誘発し、代謝ストレスを増加させる危険があります。日本版敗血症診療ガイドライン2024(J-SSCG:日本集中治療医学会などが策定した敗血症治療の標準指針)でも、発熱を伴う敗血症に対してルーチンの解熱療法を行わないことが推奨されています。
Q2. 熱がある患者さんが寒気で震えているときはどう対応すればいいですか?
A. 体温が上昇している「悪寒期」には、体表を冷やすのではなく毛布や電気毛布などで体を温めて保温します。脳が体温を上げようとしている時期に冷やすと悪寒やシバリング(身震い:筋肉を震わせて熱を作る反応)がさらに悪化するため、手足が温まり熱が上がりきって患者さんが「暑い」と感じるようになってから、本人が希望する場合に心地よいと感じる程度のクーリング(頭部の氷枕など)を行います。
熱発のアラームが鳴り響くなか、冷凍庫へ保冷剤を取りに走り、ベッドサイドで悪寒や身震いを見守る夜は、息をつく暇もありません。患者さんの様子を観察しながら駆け回っていると、ひとくち喉を潤すことすら後回しになってしまいがちです。
そんな忙しい勤務の合間に、詰め所やロッカーにお気に入りの飲み物を入れたマグボトルがひとつあると、短い休憩でもほっと一息つけます。「サーモス 真空断熱ケータイマグ」のように扱いやすい水筒を用意しておけば、慌ただしい業務の合間でも無理なく一口のお茶を口に運べます。
発熱への対応や悪寒時の保温、解熱薬の投与や報告は、各職場における施設手順優先で医師の指示に従って行います。施設手順>一次エビデンス>医師指示>商品は補助として捉え、過酷な勤務の合間にそっと寄り添う小さな支えとして穏やかに役立ててみてください。

参考文献
(1) 日本集中治療医学会・日本救急医学会合同日本版敗血症診療ガイドライン2024作成特別委員会. (2024). 日本版敗血症診療ガイドライン2024 (J-SSCG2024). 日本集中治療医学会雑誌, 31(Supplement), S1165-S1313. https://doi.org/10.3918/jsicm.2400001
(2) Young, P., Saxena, M., Bellomo, R., Freebairn, R., Hammond, N., van Haren, F., Holliday, M., Henderson, S., Mackle, D., McArthur, C., McGuinness, S., Myburgh, J., Weatherall, M., Webb, S., Beasley, R., & HEAT Investigators. (2015). Acetaminophen for fever in critically ill patients with suspected infection. The New England Journal of Medicine, 373(23), 2215-2224. https://doi.org/10.1056/NEJMoa1508375
(3) Schortgen, F., Clabault, K., Katsahian, S., Devaquet, J., Mercat, A., Deye, N., Dellamonica, J., Bouadma, L., Cook, F., Beji, O., Brun-Buisson, C., Lemaire, F., & Brochard, L. (2012). Fever control using external cooling in septic shock: A randomized controlled trial. American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine, 185(10), 1088-1095. https://doi.org/10.1164/rccm.201110-1820OC
(4) Holgersson, J., Ceric, A., Sethi, N., Nielsen, N., & Jakobsen, J. C. (2022). Fever therapy in febrile adults: systematic review with meta-analyses and trial sequential analyses. BMJ, 378, e069620. https://doi.org/10.1136/bmj-2021-069620
(5) O’Grady, N. P., Alexander, E., Alhazzani, W., Alshamsi, F., Cuellar-Rodriguez, J., Jefferson, B. K., Kalil, A. C., Pastores, S. M., Patel, R., van Duin, D., Weber, D. J., & Deresinski, S. (2023). Society of Critical Care Medicine and the Infectious Diseases Society of America guidelines for evaluating new fever in adult patients in the ICU. Critical Care Medicine, 51(11), 1570-1586. https://doi.org/10.1097/CCM.0000000000006022


