「先輩、今夜の集中治療室(ICU:重症な患者さんを集中的に管理・治療する病棟)の重症ベッド、肌が赤くてボロボロの患者さんも全員グルコン酸クロルヘキシジン(CHG:皮膚の常在菌を長時間減らす殺菌消毒薬)の薬用クロスで清拭する決まりでしたっけ?忙しいし肌荒れも怖いんですけど…」
夜勤でアラーム対応や点滴更新に追われている中、浮腫や発赤がある患者さんに冷たい薬用クロスを当てるのはガチでためらいますよね。「これって毎日のルーチン儀式になってるけど、本当に中心ライン関連血流感染(CLABSI:中心静脈カテーテルが原因で起こる全身の血液感染症)や院内感染(HAI:医療行為や入院生活がきっかけで病院内で新たに発症する感染症)、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA:多くの抗菌薬が効きにくい耐性菌)やバンコマイシン耐性腸球菌(VRE:重症感染症の治療薬バンコマイシンに耐性を持った腸球菌)の獲得を防いでるの?」と疑問に思う気持ち、わかりみが深すぎます。
良かれと思ってやってる毎日の清拭が、ただ患者さんの肌を痛めつけてるだけだったら泣くに泣けないですよね?
これって🦐えび🦐あるの?アメリカの大規模臨床試験やコクランレビュー、国際ガイドラインを見ていきましょう!

成人ICU患者への毎日のCHG清拭は感染や耐性菌を本当に減らすの?
簡単なまとめ: 集中治療室(ICU:重症病棟)の患者に対する毎日のグルコン酸クロルヘキシジン(CHG:持続性のある皮膚消毒薬)清拭は、中心ライン関連血流感染(CLABSI:中心静脈カテーテルによる血流感染)を約53%減少させ、鼻腔除菌との併用によりメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA:代表的な耐性菌)の臨床分離を37%、全原因血流感染を44%減少させる確かなエビデンスがあります。一方で、尿路感染や肺炎などを含む院内感染全体を有意に減らさなかった大規模試験もあり、予防効果は主に血流感染や特定の耐性菌に集中しています。国際学会は生後2か月を超えるICU患者への日常的清拭を「必須の実践(Essential Practice)」と位置づけていますが、神経組織や眼、中耳への直接接触を避け、指示通り洗い流さない手順を守ることが大切です。
出典: Climoら 2013、Huangら 2013、Notoら 2015、Buettiら 2022
血流感染とカテーテル感染はどれくらい減るの?
「本当に全員に毎日やる意味あると思います?」と疑いたくなる気持ち、めちゃくちゃ分かります。
この疑問に対して、2013年にニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM:世界で最も権威ある総合医学雑誌の一つ)に掲載されたClimoらの研究が、極めて強力なデータを提示しました。(1)
この試験は、アメリカの6病院にある内科・冠疾患・外科・心臓外科ICUおよび造血幹細胞移植(BMT:白血病などの治療で健康な造血幹細胞を移植する医療処置)病棟の計9ユニットに入院した患者さん7727人を対象に行われた、多施設共同のクラスターランダム化比較試験(RCT:患者や病棟をくじ引きのように偏りなく分けて効果を比べる信頼性の高い研究手法)のクロスオーバー試験です。(1)
研究では、各病棟が「洗い流し不要の2% CHG含浸クロスで毎日清拭する期間(6か月)」と、「抗菌成分を含まない通常のクロスで清拭する期間(6か月)」を順番に入れ替えて実施しました。(1)
その結果、多剤耐性菌(MDRO:複数の異なる抗菌薬に対して耐性を持つ細菌の総称)の獲得率は、対照期の1000患者日あたり6.60件から、CHG清拭期には5.10件へと 23% 有意に低下しました(P = 0.03)。(1)
菌種別に見ると、VREの獲得率は1000患者日あたり4.28件から3.21件へと 25% 有意に減少しました(P = 0.05)。(1) 一方で、MRSAの獲得率は1000患者日あたり2.32件から1.89件へと19%低下したものの、この試験単体では統計的な有意差には届きませんでした(P = 0.29)。(1)
そして、最も劇的な差がついたのが血流感染(BSI:血液中に細菌などの微生物が侵入して全身に広がる重篤な感染症)の発生率です。
院内血流感染症全体の発生率は、対照期の1000患者日あたり6.60件からCHG期には4.78件へと 28% 減少しました(P = 0.007)。(1) 二次的な感染巣のない一次性血流感染は5.24件から3.61件へと 31% 減少(P = 0.006)、そして中心静脈カテーテルを留置している患者さんでのCLABSI発生率に至っては、1000カテーテル日あたり3.30件から1.55件へと、なんと 53% も激減したのです(P = 0.004)。(1)
特に入院が長期に及ぶ重症患者さんほど効果が顕著で、病棟滞在が7日を超えた患者さんでの一次性血流感染の相対リスク(RR:ある対策をした群としなかった群で、イベントの起きやすさが何倍になったかを示す比)は 0.69 (95%信頼区間[95% CI:推計を何回も繰り返したときに真の値を含む割合が95%となる計算上の幅]0.47–0.99)、14日を超えた患者さんではRR 0.51 (95% CI 0.30–0.87)と、感染リスクがほぼ半減していました。(1)
ここで統計用語について正確に整理しておくと、95% CIは「真の値が95%の確率でこの範囲に入る」という意味ではありません。「同じ方法で標本抽出と計算を何度も繰り返した場合に、得られた区間のうち95%の割合で真の母数が含まれるような推定幅」を表しています。また、p値(p value:帰無仮説が正しいと仮定したもとで、観察されたデータまたはそれ以上に極端なデータが得られる確率)のP = 0.004は、「もしCHGに全く効果がないとしたら、偶然だけでこれほど極端な差が生じる確率は1000回に4回程度しかない」という事実を示しています。
うーむ、カテーテル感染が半分以下になるというのは、現場の感覚からしてもガチでえぐい数字ですよね。ライン感染が1件発生するだけで、患者さんは敗血症の危機にさらされ、血培採取や抗菌薬投与、カテーテル入れ替えで心身ともに極限まで削られてしまいます。
だけど、、、この素晴らしい数字を見て「よっしゃ!今日から全身力を込めて拭きまくったろ!」と突っ走るのはちょっと待ってください。
以前、気合の入った後輩ナースが「エビデンス通りにカテーテル感染を絶対に防ぐぞ!」と意気込み、浮腫で皮膚がパンパンになった患者さんの腕や背中をゴシゴシ力任せに擦り、翌朝「先輩…ライン感染は防げましたけど患者さんの背中が真っ赤になりました…」と消え入りそうな声で申し送ってきたことがありました。感染を防いでも皮膚バリアを物理的に壊してしまっては本末転倒ですよね。
なお、Climoらの試験における皮膚障害の発生率は、CHG群で2.0%(3970人中78人)、対照群で3.4%(3842人中130人)でした。(1) 報告された皮膚反応(計208件)はすべて清拭介入とは無関係と判定されており、その85%は軽度から中等度(グレード1〜2の軽微な発赤や乾燥)で、清拭自体に起因する重篤な皮膚障害は認められませんでした。(1) また、回収された1106株(MRSA 713株、VRE 393株)の最小発育阻止濃度(MIC:細菌の発育を阻止するために必要な薬剤の最小濃度)を測定した感受性試験でも、高度耐性菌の出現は見られませんでした。(1)
MRSAスクリーニングと全員除菌はどっちが勝つの?
「MRSAの検査で陽性が出た人だけ拭くのと、最初から全員拭くの、どっちが良いの?」という疑問も湧いてきますよね。
この問いに白黒つけたのが、2013年に同じくNEJMに掲載されたHuangらの「REDUCE MRSA試験(Randomized Evaluation of Decolonization versus Universal Clearance to Eliminate MRSA:ICUでのMRSA保菌者スクリーニングと全員除菌の効果を比較検証した臨床試験)」です。(2) アメリカ疾病予防管理センター(CDC:米国の公衆衛生と感染症対策を主導する連邦機関)の予防拠点ネットワークの支援のもと、アメリカ全土の43病院、74の成人ICU、介入期間中の患者数74,256人という、気が遠くなるほど大規模なクラスターRCTが実施されました。(2)
研究チームは、ICUを以下の3つの感染対策戦略に割り振って比較しました。(2)
- 第1群(スクリーニングと隔離) :入室時に全員の鼻腔MRSA検査を行い、陽性者や既往のある患者にのみ接触予防策を実施する(従来の標準的な管理)。
- 第2群(標的除菌) :スクリーニング陽性のMRSA保菌者に対してのみ、ムピロシン軟膏の鼻腔塗布(1日2回・5日間)と毎日のCHG清拭クロスによる除菌を行う。
- 第3群(全員除菌/ユニバーサル除菌) :入室時のスクリーニング検査を行わず、入室した成人ICU患者全員に対して、毎日のCHG清拭クロスと最初の5日間のムピロシン鼻腔塗布(1日2回)を実施する。
追跡期間中の感染発生リスクを比較した結果、MRSA臨床分離株のハザード比(HR:追跡期間中のある時点において、イベントが発生する相対的な危険度を表す統計指標)は、ベースライン期間との比較で、第1群が0.92(粗発生率 1000患者日あたり3.4件から3.2件)、第2群が0.75(4.3件から3.2件)、第3群が 0.63 (3.4件から2.1件)となりました(3群の同等性を検定するP = 0.01)。(2)
第1群(スクリーニングと隔離)のベースライン期に対するHRが0.92(95% CI 0.77–1.10)とほぼ横ばいだったのに対し、第3群(全員除菌)の対ベースラインHRは 0.63 (95% CI 0.52–0.75)まで低下し、両群のハザード比の同等性検定でも有意差が示されました(P = 0.003)。(2) つまり全員除菌によって、ベースライン期間と比べてMRSAの臨床培養陽性が 37% 有意に減少したのです。(2)
さらに強烈だったのが、あらゆる病原体を対象とした全原因血流感染(BSI)のハザード比です。第1群の対ベースラインHRが0.99(95% CI 0.84–1.16、粗発生率 4.2件から4.1件)、第2群が0.78(4.8件から3.7件)であったのに対し、第3群の対ベースラインHRは 0.56 (95% CI 0.49–0.65、6.1件から3.6件)まで大幅に低下しました(第1群との比較でP < 0.001)。(2) これにより、全員除菌群ではベースライン比で全原因血流感染が 44% も減少したことになります。(2)
治療必要数(NNT:1件の感染イベントを防ぐために介入を行う必要がある患者数)を算出すると、全原因血流感染を1件予防するために必要な除菌患者数はわずか 99人 、MRSA臨床培養陽性を1件防ぐためのNNTは 181人 でした。(2) 有害事象は74,256人中わずか7人(第2群で2人、第3群で5人)で、すべてCHGによる軽微な皮膚掻痒感や発赤であり、使用を中止すると速やかに消失しました。(2)
ふーむ、検査をして陽性の人だけに対処するよりも、ICUに入った全員を一律に除菌した方が、MRSAも血流感染も圧倒的に減っていたわけです。論文の著者らはこの理由として、患者自身の皮膚常在菌が減ること、病室環境の汚染が抑えられること、そしてスクリーニング結果を待つ数日間の遅れがなく入室初日から除菌を開始できること、の3つの要因を挙げています。(2)
以前は、新患のICU入室時に細いスワブで患者さんの鼻腔を拭い、「あれ、検体出したっけ…?」と夜勤帯に血眼になって検体提出ボックスを探し回るのが病棟あるあるでした。全員除菌がルール化されていれば、検査提出の抜け漏れに怯えるストレスから解放されるという意味でも、現場目線でマジで助かりますよね。
なぜ「効果なし」という有名研究が出たの?
ここまで読むと、「CHG清拭ってどんな感染症も防げる神の布じゃね?」と思えてきますよね。
だけど、医療の世界に絶対の万能薬は存在しません。2015年に米国医師会雑誌(JAMA:米国医師会が発行する総合医学誌)に掲載された、ヴァンダービルト大学のNotoらによる大規模試験が、まさにその冷徹な現実を突きつけました。(3)
Notoらは、5つの成人ICU(内科、外科、外傷、心臓血管、脳神経)に入院した9340人の患者さんを対象に、実用的なクラスターランダム化クロスオーバー試験を行いました。(3) 2% CHG含浸クロスで毎日清拭する期間(10週間)と、抗菌成分のない通常のクロスで清拭する期間(10週間)を、2週間のウォッシュアウト期間を挟んで各ICUで交互に実施したのです。(3)
この研究の主要評価項目は、CLABSI、尿道カテーテル関連尿路感染(CAUTI:尿道カテーテルを留置している患者さんに発生する尿路の感染症)、人工呼吸器関連肺炎(VAP:人工呼吸器を装着している患者さんに起こる肺の感染症)、およびクロストリディオイデス・ディフィシル感染症(CDI:抗菌薬使用後などに腸内で毒素を産生して下痢や腸炎を起こす細菌感染症)の4つを合算した複合アウトカムでした。(3)
結果はどうだったと思います?
主要複合アウトカムの発生率は、CHG清拭期が1000患者日あたり 2.86件 (55件)、対照期が 2.90件 (60件)であり、介入群と対照群の粗発生率差は −0.04 (95% CI −1.10〜1.01、P = 0.95)、共変量を調整したリスク比も 0.94 (95% CI 0.65〜1.37、P = 0.83)と、有意な減少は示されませんでした。(3)
個別の内訳を見ても、CLABSIはCHG期4件・対照期4件と同数、CAUTIは21件 vs 32件、VAPは17件 vs 8件、CDIは13件 vs 16件でした。(3) 二次評価項目である院内血流感染症や血液培養汚染、多剤耐性菌の臨床培養陽性率にも有意な差は認められませんでした。(3) さらに事後解析(post-hoc analysis)では、疑いまたは確定のVAP(possible/probable VAP)の発生率がCHG期で対照期よりも高いというシグナルも認められています(実治療[as-treated]での率差 0.55、95% CI 0.05〜1.05、P = 0.035)。(3)
著者のNotoらは「この実用的試験において、CHGによる毎日の清拭は院内感染の発生率を低下させず、重症患者への日常的なCHG清拭を支持しない」と結論づけています。(3)
なぜClimoらやHuangらの試験と違って、差が全く出なかったのでしょうか?
うーむ、なぜ先行研究と結果が分かれたのでしょうか。Notoらの論文の討論では、もともとの感染発生率が低く検出できる効果に下限があった可能性や、介入期間の違い(Climoらの24週に対して10週)、能動的監視やBMT病棟を含まなかった点、Climoらの血流感染減少がコアグラーゼ陰性ブドウ球菌主体だった点など、複数の要因が挙げられています。(3)
また臨床的な視点から見ると、この試験の主要評価項目がCLABSIだけでなく、CAUTIやVAP、CDIといった多臓器の感染症を合算した複合アウトカムだったことも見逃せません。(3) この試験の複合アウトカムには血流感染以外の感染症も含まれており、全体としての感染発生率の減少は示されませんでした。(3)
当サイトの人工呼吸器関連肺炎予防の解説でも整理している通り、日々のケアにおける感染対策の標的は見極めが肝心です。Notoらの試験でも示されたように、全身の皮膚清拭によって人工呼吸器関連肺炎(VAP)の発生率が減少することはなく、むしろ事後解析では疑い以上のVAP増加シグナルまで観察されています。(3)
皮膚清拭に、尿路や呼吸器、腸管の感染症まで広く防ぐ万能の効果は期待できません。これまでの集中治療室での臨床試験が明確な予防効果を示しているのは主に血流感染や特定耐性菌の抑制であり(1)(2)、一般病棟を対象とした試験では全体として有意差はなく、事後解析のデバイス保有者という一部のサブグループで効果が認められたにとどまります。(4)

一般病棟やコクランレビューでの評価はどうなの?
「ICUで効くなら、一般病棟の患者さんにも全員毎日CHG清拭をやった方が良くね?」と考える人もいるかもしれません。
しかし、アメリカの53病院・194の一般病棟(非集中治療室)において、介入期339,902人(ベースライン期189,081人)を対象とした大規模クラスターRCTであるABATE Infection試験(Active Bathing to Eliminate Infection:一般病棟でのCHG清拭とMRSA保菌者への鼻腔除菌の効果を検証した試験、Huangら 2019)では、病棟全体におけるMRSAやVREの培養陽性(HR 0.79 vs 0.87、P = 0.17)および全血流感染(HR 0.90 vs 0.96、P = 0.44)を有意に減らしませんでした。(4) ただし事後解析において、中心静脈カテーテル(使用中のポートを含む)、ミッドラインカテーテル、または腰椎ドレーンが留置されているデバイス保有患者に限ると、全原因血流感染が32%、MRSA/VREの臨床培養陽性が37%有意に減少していました。(4)
つまり、デバイスのない安定した一般病棟の患者さんにまで一律に広げるメリットは薄いわけです。

また、8件の研究・24,472人を統合した2019年のコクランレビュー(Lewisら 2019)では、ICUでのCHG清拭による院内感染の減少率差は1.70(95% CI 0.12–3.29、21,924人)、全死亡のオッズ比(OR:ある事象が起きる見込みと起きない見込みの比が、2つのグループ間で何倍違うかを表す指標)は0.87(95% CI 0.76–0.99、15,798人)と推計されたものの、研究間のばらつきやバイアスリスクからエビデンスの確実性は「非常に低い(very low quality)」と評価されています。(5) ICU滞在期間や皮膚障害への影響についても、データが不揃いなため確たる結論は出せないと結ばれました。(5)
こうした試験ごとの濃淡を踏まえた上で、世界の感染対策ガイドラインはどう判断しているのでしょうか?
米国医療疫学学会(SHEA:米国の院内感染対策をリードする専門学会)、米国感染症学会(IDSA:米国の感染症専門医が集まる権威ある学術団体)、感染管理・疫学専門家協会(APIC:感染対策の実務者や看護師を中心とする米国の専門組織)が合同で改訂した2022年のCLABSI予防指針では、「生後2か月を超えるICU患者に対する毎日のクロルヘキシジン製剤による清拭」を、質の高いエビデンス(Quality of Evidence: HIGH)に基づく「必須の実践(Essential Practice)」 として明確に位置づけています(小児ICUも対象に含まれます)。(6)
さらに2023年のMRSA対策指針でも、成人ICUの全患者に対する全員除菌(毎日のCHG清拭と5日間の鼻腔除菌)が、質の高いエビデンス(Quality of Evidence: HIGH)として推奨されています。(7)
手指衛生コンプライアンスと院内感染対策の基本でも整理している通り、清拭の効果を語る大前提としてスタッフの手指衛生の遵守が欠かせません。いくら患者さんの皮膚を清潔に保っても、医療従事者の手が汚染されていてはライン感染は防げません。
限界点も知っておこう
エビデンスを臨床で賢く使うために、CHG清拭の限界と注意点もしっかり押さえておきましょう。
第一に、CHG清拭は臨床試験で血流感染の減少が報告されているものの、(1)(2) 大規模試験において尿路感染(CAUTI)や肺炎(VAP)、クロストリディオイデス・ディフィシル感染症(CDI)などの非血流感染症の発生率は減少させませんでした。(3) また、事後解析では疑い以上のVAPが増加傾向を示したシグナルもあり、皮膚以外の感染症まで防げるわけではない点に注意が必要です。(3)
第二に、CHG清拭単独ではMRSA保菌者を完全に除菌しきることは難しいため、耐性菌の全体的な制御には鼻腔除菌(ムピロシン軟膏の塗布など)との組み合わせが推奨されています。(2)(7) なおHuangらの試験デザインではムピロシン単独の寄与度を完全には切り分けられないものの、鼻腔と体表双方へのアプローチが臨床的な成果につながったと考えられています。(2)
第三に、一般病棟で中心静脈カテーテルなどの侵襲的デバイスを持たない患者さんに対して、ルーチンで一律にCHG清拭を行うエビデンスは確立していません。(4)
第四に、長期間にわたる広範な使用に伴う、クロルヘキシジンへの感受性低下(reduced susceptibility)や耐性に関する懸念です。(8) ブドウ球菌において薬剤排出ポンプをコードする qacA/B 遺伝子や smr 遺伝子などの保有と感受性低下の報告が増加しているものの、その臨床的な意義や殺菌効果への実際の影響については未解決の議論が残されています。(8) 有効性の確かなデータがない状況での無差別なCHG使用は控えるべきと指摘されています。(8) また実験室レベルの研究ではありますが、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)の臨床分離株6株をCHGに適応させた実験において、phoPQ や smvR/smvA 変異を介して6株中5株が最終治療薬であるコリスチンへの耐性を獲得したという報告もあり、感染対策手技における潜在的なリスクとして注目されています。(9)
なお清拭の実施方法として、ガイドラインでは使い捨ての2% CHG含浸クロスのほか、ボトル入りの4% CHG製剤を洗面器の水で1:1に希釈して2%の洗い流さない(no-rinse)清拭液として使用する方法も許容される選択肢として挙げられています。(7)
今後どうしていくべきなの?(手順・例外・判断基準)
今夜の夜勤で迷わないために、ベッドサイドでの正しい実践手順と判断基準を整理しました。
- 製剤の種類と濃度を必ず確認する :清拭に用いられる製剤には、使い捨ての2% CHG含浸クロスのほか、ボトル入りの4%液などがあります。(7) 4%水溶液を使用する場合は、製品や施設の手順に従って洗面器の水で1:1に希釈し、2%液として調製して使用します。(7) 希釈していない4%液を洗い流さずに皮膚へ放置すると、皮膚の亀裂や強い掻痒感、灼熱感といった皮膚障害が比較的多く生じるため、未希釈でのno-rinse使用は避けてください。(7)
- 神経組織・眼・中耳への直接接触を避ける :ガイドラインでは、神経組織への直接接触を避けること、眼、および中耳(鼓膜穿孔がある患者など)への接触を避けることが明記されています。(7) またCHG清拭製品は首から下の身体に使用することが基本とされています。(7) 顔面や粘膜、開放創などの清拭部位の制限や具体的な手順については、使用する製品の添付文書や所属施設の看護手順マニュアルの指示に従ってください。
- 拭いた後は洗い流さない(no-rinse製品の手順遵守) :「消毒液をつけたままにしておくのは肌に悪そう」と、拭いた直後にお湯タオルで洗い流してしまうナースが現場にいたりします。しかし、ガイドラインでは4%製品がシャワー等での洗い流し(rinse-off)用とされるのに対し、清拭用の2%製品は洗い流さない(no-rinse)タイプとして位置づけられています。(7) 2%清拭製品は製品の指示通り、拭き取り後に洗い流さずそのまま保つことが大切です。(7)
- スキンケア製品との適合性を確認する :大規模試験においても、CHGと両立しないスキンケア製品や入浴製品は事前に病棟から除外されるか、適合する製品に置き換えて実施されています。(1)(2) 清拭と合わせて保湿剤や皮膚保護剤を使用する場合は、CHGと併用可能(CHG-compatible)と確認されている製品を選び、施設の手順や製品説明書の指示に従って使用することが重要です。
- 皮膚障害の観察と対応 :発赤、発疹、強い掻痒感などの有害事象が現れた場合は、施設の手順や製品の指示に従い、医師や皮膚・排泄ケア認定看護師に相談します。浮腫や脆弱な皮膚を持つ高齢患者さんでは、皮膚をゴシゴシ強く擦らないよう配慮することが大切です。
- 自部署のマニュアルと手順を事前に確認する :病棟やICUのマニュアル、感染管理チーム(ICT:医師や看護師、薬剤師、検査技師などが連携して院内の感染対策を推進する多職種チーム)の取り決めにより、対象患者の基準や除外規定(新生児や重度の皮膚炎など)が定められているため、今夜の清拭前に必ず手順書を確認しておきましょう。
良かれと思ってCHGクロスで拭いた直後に、「さっぱりさせてあげよう!」と温水タオルでゴシゴシ拭き取ってしまったり、未適合の石鹸を使ってしまったりするケアのすれ違いは現場で起きがちです。2%の清拭クロスは洗い流さずにおく、これが基本ルールです!

✔まとめ
✔ 成人ICUでの毎日のCHG清拭は中心ライン関連血流感染(CLABSI)を約53%減少させる (1)
✔ 鼻腔除菌との併用により全原因血流感染を44%、MRSA臨床分離を37%有意に減らす (2)
✔ 尿路感染や肺炎などの非血流感染症の減少は示されておらず、全院内感染への効果の確実性は非常に低く不確実である (3)(5)
✔ 神経組織や眼、中耳への直接接触を避け、2%清拭製剤は指示通り洗い流さずに使用する (7)
✔ 清拭と併用するスキンケア製品は事前にCHG適合性が確認されたものを選択する (1)(2)
個人的には、毎日のルーチン清拭を単なる「夜勤のノルマ」としてこなすのではなく、「この1枚のクロスが今夜のカテーテル感染を防ぎ、患者さんの命を救っているんだ」と確信を持ちながら、荒れやすい患者さんの肌を一番優しい手つきで守ってあげられるナースが、最高にかっこいい看護師だと思います。
この記事は診療・治療の代替ではありません。実際の臨床判断は所属施設の手順書および担当医の指示に従ってください。
よくある質問
Q. 成人ICU患者への毎日のCHG清拭は感染や耐性菌を本当に減らすの?
A. 集中治療室(ICU:重症病棟)の患者に対する毎日のグルコン酸クロルヘキシジン(CHG:持続性のある皮膚消毒薬)清拭は、中心ライン関連血流感染(CLABSI:中心静脈カテーテルによる血流感染)を約53%減少させ、鼻腔除菌との併用によりメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA:代表的な耐性菌)の臨床分離を37%、全原因血流感染を44%減少させる確かなエビデンスがあります。一方で、尿路感染や肺炎などを含む院内感染全体を有意に減らさなかった大規模試験もあり、予防効果は主に血流感染や特定の耐性菌に集中しています。国際学会は生後2か月を超えるICU患者への日常的清拭を「必須の実践(Essential Practice)」と位置づけていますが、神経組織や眼、中耳への直接接触を避け、指示通り洗い流さない手順を守ることが大切です。
Q. CHG清拭のあと、お湯で絞った温水タオルで拭き取ってもいいですか?
A. 拭き取ってはいけません。ガイドラインにおいて清拭用の2% CHG製剤は洗い流さない(no-rinse)タイプとして位置づけられています。(7) 温水タオルなどで洗い流すことはせず、製品の指示に従って洗い流さずにそのまま保つことが推奨されます。
Q. 顔や陰部、傷口の清拭にもCHGクロスを使っていいですか?
A. ガイドラインでは神経組織への直接接触を避けること、眼、および鼓膜穿孔がある患者などの中耳への接触を避けることが求められており、CHG清拭製品は首から下の身体に使用することが基本とされています。(7) 顔面や粘膜、創傷部位などの使用部位については、施設の手順や製品の添付文書に従ってください。
集中治療室での日々の勤務は、細やかな観察の連続で緊張が途切れません。清拭をはじめとする援助に追われる毎日は、心身ともに負担がかかります。引き継ぎを終えて退勤の時間を迎えたら、張り詰めた気持ちを緩め、穏やかな時間へと戻りたいところです。
仕事帰りの寄り道では、手軽に荷物をまとめられる備えがあると気持ちにゆとりが生まれます。マーナの「シュパット コンパクトバッグ M」は、底が広くお弁当も入れられるうえ、両端を引っ張るだけで一気にたためる作りが特徴です。コンパクトで持ち歩いてもかさばらないため、通勤時にこのような小物を忍ばせておくと重宝します。
慌ただしい一日を乗り切ったあとは、ゆっくりと休息を取って次の勤務に備えたいところです。クロルヘキシジン清拭の実施や判断については、各施設の手順や担当医師の指示に従って進めることが原則となります。張り詰めた現場で尽力する日々のなかに、ほっと息をつける穏やかな時間が少しでも重なることを願っています。

参考文献
(1) Climo, M. W., Yokoe, D. S., Warren, D. K., Perl, T. M., Bolon, M., Herwaldt, L. A., Weinstein, R. A., Sepkowitz, K. A., Jernigan, J. A., Sanogo, K., & Wong, E. S. (2013). Effect of daily chlorhexidine bathing on hospital-acquired infection. New England Journal of Medicine, 368(6), 533–542. https://doi.org/10.1056/NEJMoa1113849
(2) Huang, S. S., Septimus, E., Kleinman, K., Moody, J., Hickok, J., Avery, T. R., Lankiewicz, J., Gombosev, A., Terpstra, L., Hartford, F., Hayden, M. K., Jernigan, J. A., Weinstein, R. A., Fraser, V. J., Haffenreffer, K., Cui, E., Kaganov, R. E., Lolans, K., Perlin, J. B., & Platt, R., for the CDC Prevention Epicenters Program; AHRQ DECIDE Network and Healthcare-Associated Infections Program. (2013). Targeted versus universal decolonization to prevent ICU infection. New England Journal of Medicine, 368(24), 2255–2265. https://doi.org/10.1056/NEJMoa1207290
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